保険給付の概要
労災保険には業務災害による保険給付と通勤災害による保険給付があります。給付の名称により「補償」と名の付く場合は業務災害を表し、付かないものは通勤災害による保険給付となります。基本的には同じ給付内容のものが多く説明が重複するので、同じ給付内容の場合は「(補償)」とカッコ書きを付けて保険給付名を表現します。
例:療養補償給付及び療養給付→療養(補償)給付
労災保険は仕事中または通勤途中でケガをしたり病気になったりすると、治療を受け(療養(補償)給付)、休業中の賃金補償を受け(休業(補償)給付)、障害が残れば補償を受け(障害(補償)給付)、死亡すれば遺族に補償金(遺族(補償)給付)が支払われます。
下図は時間の経過で給付がどのように変わっていくかを示した例です。業務上または通勤災害における被災労働者あるいは遺族に対して手厚い保護が成されているのが解ると思います。
図には載っていませんが、死亡時に給付される葬祭料(葬祭給付)、健康診断で重篤になる可能性がある異常が見つかれば、さらにその所見に対しての精密検査を受けることができる二次健康診断等給付、社会復帰促進等事業で支給される特別支給金の保険給付もあります。
傷病の治療等に関する給付は | 療養(補償)給付 |
治療による休業に対する給付は | 休業(補償)給付 |
傷病(補償)年金 | |
障害に関する給付は | 障害(補償)給付 |
介護に関する給付は | 介護(補償)給付 |
遺族に対する給付は | 遺族(補償)給付 |
葬祭に関する給付は | 葬祭料(葬祭給付) |
被災労働者等援護事業からの給付は | 特別支給金 |
健康診断に関する給付は | 二次健康診断等給付 |
年金給付の支払について
- 支給期間
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年金給付の支給は月単位で行われ、支給すべき事由の生じた月の翌月から支給を受ける権利が消滅した月までです。
支給を停止する事由が発生した場合は、その事由が発生した月の翌月からその事由が消滅した月までの間は支給されません。
- 支給期月
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年金給付は、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の6期に、それぞれの前月分までが支払われます。ただし、支給を受ける権利が消滅した場合、支払期月でない月であっても支払は行われます。
- 保険給付の内払い
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年金給付を支給停止すべき事由が生じたのに支払われたとき、その後に支払うべき別の年金給付の内払いとみなされます。
例:傷病(補償)年金が支給されていたが、治癒して(傷病(補償)年金の権利が消滅)障害が残り障害(補償)年金を受給する権利が発生した場合、障害(補償)年金を受給する権利が発生した後に傷病(補償)年金として支給されたときは、障害(補償)年金を支払ったとみなす規定です。
- 保険給付の過誤払
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年金給付を受ける権利を有する労働者が死亡したにもかかわらず、死亡日の属する月の翌月以降年金給付の過誤払いが生じた場合、その年金給付を返還する義務のある者に支払うべき保険給付があるときは過誤払による返還金債権の金額に充当することができます。
例:傷病(補償)年金を受給していた労働者が死亡したにもかかわらず年金給付が支払われた場合、その死亡に係る遺族(補償)年金の受給権者が過誤払いによる返還金債権に係る債務の弁済をすべき者であるときは過誤払いの年金給付は遺族(補償)年金に充当されます。
支給制限
制限事由 | 制限内容 | 制限されない保険給付 |
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故意に負傷、疾病、傷害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせた | 保険給付は行わない | なし |
故意の犯罪行為又は重大な過失により、負傷、疾病、傷害若しくは死亡又はこれらの原因となった事故を生じさせた | 休業(補償)給付、障害(補償)給付、傷病(補償)年金につき保険給付のつど所定給付額の30%を支給制限する ※障害(補償)年金、傷病(補償)年金の支給制限は、療養開始後3年以内に支払われるものに限られる | 療養(補償)給付、遺族(補償)給付、介護(補償)給付、葬祭料(葬祭給付) |
正当な理由が無くて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、又はその回復を妨げた | 事案1件につき、休業(補償)給付の10日分、傷病(補償)年金の365分の10相当額を減額する | 療養(補償)給付、障害(補償)給付、介護(補償)給付 |
費用徴収
次のいずれかに該当する事故について保険給付を行った場合、事業主または不正受給者から保険給付に要した費用の全部又は一部を徴収することができます。
徴収先 | 事故内容等 | 徴収費用 | 除外給付 |
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事業主 | 事業主が故意又は重大な過失により、労災保険に掛かる保険関係の成立を怠っていた期間中に生じた事故 | 保険給付額の100% | 療養(補償)給付、介護(補償)給付、二次健康診断等給付 |
事業主が一般保険料を法定の納期限までに納付せず、政府の督促に対し督促状の指定期限後まだ納付していない期間に生じた事故 | 滞納率を乗じて得た額(最大40%) | 療養(補償)給付、介護(補償)給付、二次健康診断等給付、再発に係るもの | |
事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故 | 保険給付額の30% | ||
不正受給者 | 偽りその他不正の手段により保険給付を受けたとき | 保険給付の全部又は一部 |